アル中が説明するまでもない偉大な名杜氏、農口尚彦氏が酒造りを伝承する農口尚彦研究所。農口氏の業を学ぶため熱意溢れる若人たちが社員として働いているとか。
建物の入り口には杉玉が。やはり酒造にはこれがなくては。なんとも酌が進む様に色づいています。待合室に入った瞬間に広がる麹の香り。アル中はすっかり上機嫌。おっとこれは他所様のお酒ですよ。
テイスティングセミナーの前に、社員の方が見学コーナーに案内してくれました。ここはどんだけ撮影しても大丈夫、とのことでした。オランジェさんに負けずパシャパシャ。29個のタンクで酒造りしているとのこと。
これだけ農口氏を讃えていると、農口氏が酒造りを研究する場所なのか農口氏を研究する場所なのか分からなくなってきました。あえてブログでは載せていない貴重な情報もありました。
お楽しみの日本酒がこちら。
この5種類のほかに、リミテッドエディションがワイングラスで提供されました。右上の水は、もちろん仕込み水です。
あえてこの順番にしたものと思われますが、味や風味の強いものから順に試飲が始まりました。
リミテッドエディション
酒米: 山田錦 特A地区
つくり: 山廃仕込み
ふち: 少しとろみを感じる
色: 透明
香り: 餅、麹の香り、米の甘さ、力強い
味: 甘い
2018年から製造、2019年のヴィンテージ。550本製造。
正直この酒でかなりガツンとやられてしまった感がある。山廃仕込みかつ製造から7年経っている酒なのでよく練れた味わいとなっていた。これ、やっぱり最後じゃなきゃダメなんじゃね?
以下、写真の右からの順番です。
純米大吟醸
酒米: 兵庫県山田錦
つくり: 山廃仕込み
ふち: 水
色: 透明
香り: 重い、山廃酒の深み
味: しっかりとした味わい、酸味、米の深み
2020年仕込み。5年熟成。精米歩合50%
付け合わせは、ぶりのスモーク。ベストマリアージュで、このくらい味わいのあるアテでなくては調和がとれない。酸味が強く、飲みなれていない人には少し辛いかも。色の違いも記録しておきたかったのだが、ぐい吞みの美麗な装飾と照明の色合いで識別することは困難であった。
岡山県雄町
酒米: 岡山県雄町
ふち: 水
色: かすかに黄色味がある。照明のせいか?
香り: -
味: 旨味が強い。流石雄町、吞む程に味わいが強まる。…やっぱり、うまいなぁ
精米歩合55%
香りのコメントを失するくらいには出来上がってきました。アテはエビの麴和え。魚のアテと最高である。「オマチスト」というファンを抱える程人気な酒米雄町。銘酒は数知れず。酒に興味がある人でまだ試したことがないなら、一度よい酒を出す店やイベントで飲んでみてほしい。
長野県美山錦
酒米: 長野県美山錦
ふち: 水
色: 透明
香り: 糊、柑橘の風味
味: 果物の旨味
精米歩合55%
アテは牡蠣の蜜柑和え。かなりアル中のツボを突くアテである。ん~、酒が進むわい。同系統の方向性でマリアージュしているので、迷いがない。一通り全種類を試した後この酒に戻ってくると、バランスのよさに気づく。これ好きかも。
…と、言ったところで気づいたのが、いずれも非常に洗練された高い水準の酒であるので、えぐみや雑味と言った嫌な要素が全く感じられないということ。普段飲んでる酒とレベルが違うということだ。
兵庫県愛山
酒米: 兵庫県愛山
ふち: 水
色: 透明
香り: フルーツ感
味: 深み
精米歩合55%
飲み比べた中でもっとも万人受けするであろう酒。アテはモッツァレラチーズ。サラダと合わせても美味しいモッツァレラチーズ。サラダから野菜の煮物、白身魚の刺身まで受け入れてくれるだろう。
ちなみに農口氏の酒は、3年は寝かせるのだとか。
北陸産五百万石
酒米: 北陸産五百万石
ふち: 水
色: 透明
香り: 燗酒の香り、腰太な印象
味: 甘い、アルコールが立った時に感じるツンッとした嫌味がない、馴染む
精米歩合65% 7年熟成 ぬる燗
アテは豆腐の醸し漬け。味わいの強いものから試すことになったといった通り、この酒がもっともマイルドである。しっぽりと飲みたい酒である。
酒は一年に一回しか作らないとか。正に昔ながらの製法である。速醸、山廃どちらもある
仕込み水
白山の伏流水を地下80mから汲み上げている。非常になめらかで上質
すでに述べている通り味の強いものから試したので、嗅覚と味覚が非常に疲れた。スタンダードに味わいの軽いものからの方が助かる。秋上がり・ひやおろしの酒はある。蔵では4℃~5℃で保存している。生酒であるのため酵母菌が生きている。蔵人は九人。
ぐずぐず酒の味わいについて述べていると、おまけで純米酒も出してくれた。
純米酒
酒米: 北陸産五百万石
普段から飲んでる人はコレ!酒飲みなら分かるはずだ
今回、幸運にも農口尚彦研究所に赴くことが出来たわけですが、場所は遠く、山の中です。電車やバスで行かない方がよいでしょう。いわゆる金沢観光の日中を移動時間とテイスティングセミナーに当てました。富士タクシーさんで観光タクシーを依頼し、能美市九谷焼美術館、農口尚彦研究所と回りました。観光タクシーは決して安くないですが、使い勝手は最高です。それこそ社長やVIPになったつもりでドライバーさんに指示を出せば、的確なコースで移動してくれます。気心知れた仲間たちと行けば、割り勘で済みます。なにより、みんな酒飲めますからね。ちなみに車種は、HONDAのアルファードでした。ドライバーさん曰く「金沢のこの時期で三日も晴れが続くのは珍しい」とのことで、高い空に漂う白い雲、白山と優美な景色を眺めることができました。山々の木々もよく色づいています。能美市九谷焼美術館に迫る道では銀杏の葉が綺麗な黄色に染まっていました。特にお願いはしていませんでしたが、知れずよい道を選んでくれたのかもしれません。
おまけ
木場谷
これは店の親方のショウです。金沢の全力投球が1イニング~9イニングまで続きます。表裏はありません。親方の完全試合、もしくは客が飽きて帰るまでホームランだけが続きます。本気で美味いものしか出ません。それも東京六本木や麻布の店のようなチマチマしたものではないです。「これ、本当はもっとシャリを握っていたんですけど、以前のお客さんから『この良じゃ全品喰いきれねぇ』と怒られてしまいまして…」とは親方のセリフ。旅が終わってから思い出すと「どうだ、金沢美味いだろ、凄いだろ、ガハハ」と親方が満足したいんだろうなと感じました。素人目でも、地元の漁師さん達に「今日の漁の一番いい奴をくれ。金は用意してある」と依頼してあるのが分かります。
これは禁句かもしれませんが、一般のお客さんのところに並んでいるものは、飲食店さんの目に留まらなかったものであるかもということです。誰だって高く買ってくれるところに売りたいよねぇ。
武内酒造
ひがし茶屋街から歩いて行きました。
「うちは全て県内で消費されるくらいにしか作ってないんですよ」とは、若旦那の言葉。予約もなしに尋ねたというのに蔵見学までしてくれました。純米酒から純米大吟醸まで、蔵の中で並べてくれました。気になったのは精米歩合70%と低精米の生酒「千」。市議会議員の方が発案で、この銘柄を仕込むときにだけ手伝いに来るのだとか。そんな話をしていると、近所に転勤してきたという青年が宅飲み用の酒を求めてやってきました。こういうのだよな。ひがし茶屋で錫のぐい飲みを買ってあります。これで「きゅっ」とやるのです。
やちや酒造さんも楽しみにしていたのですが、あいにくお休みだったようです。