シャトー・マルゴー

常世の美酒か…
呑助として進むべきマイルストーンを、一つ達成できたようだ。

昨年に引き続き、フランス五大シャトーの一角シャトー・マルゴーの試飲会に参加できた。ホストはシャトー・マルゴーの支配人ティボー・ポンタリエ氏。昨年前支配人である実父ポール・ポンタリエ氏を59歳という若さで失ったばかりだそうだが、気丈にも精力的に活動しているようである。

古くは12世紀から続くマルゴー地方でのワインの歴史から、シャトーが誇るテロワールについて紹介があった。スライドで紹介された写真は砂利、岩石が多くおよそ植物が生育地として選ぶような土地ではなかった。「素晴らしい葡萄は枯れた大地に生育する」という一般論を地で行くような土地に見えた。ティボー氏曰く、最上級クリュであるプルミエ・クリュに必要なものは、一に土地、二に天候、そして三に人間の貢献、だそうだ。なるほど、如何に優れた適地であろうと作り手のケアなしには最高のワインは生まれない。ワインを熟成する樽は専任の職人が製造しているらしく、オーク樽を用いているそうだ。平時ウィスキーを愛飲する身からすれば非常に興味深い話である。

さて、お楽しみのワインの試飲。
前回同様、筆舌に尽くしがたいほどの素晴らしさで、語りきれる言葉が見つからないが、舌と鼻孔に染つけた感動を呼び起こすためにここに記しておく。
※ただのアル中の感想に過ぎない。錯乱したかのような意味不明な言葉を綴っているがあしからず…。


1. PAVILLON BLANC DU CHATEAU MARGAUX 2009

ぶどう種: ソーヴィニヨン・ブラン
香り: ナッツ、柑橘系、フルーツ
ファースト: 酸味に始まるが、すぐに甘みを感じる
フィニッシュ: さわやか、バターを感じさせる
ボディ: 丸みを感じるが確かな存在感を感じる

マルゴーの白ワイン。ティボー氏曰く、和食であれば寿司、天ぷらと合わせて頂くと良いそうだ。なるほどバター香を感じさせるほどボディがしっかりしているため、確かに揚げ物とも相性は良さそうだ。キス、エビあたりの天ぷらと頂きたい。テーブルに運ばれた段階で最高の香りが楽しめるタイミングになるようティボー氏が指南されているそうだが、三口目からグラスいっぱいにバター香が溢れ、酸味とクリーミーさが際立つ。酸味と述べているがファーストの段階でもその酸味は極めて滑らかで、多くの白ワインがもつ鼻に刺すようなものではない。リースリングの白ワインを多く楽しみ、他のワインは酸味を期待して料理と合わせる位置づけにしているが、この白ワインは別格。存分な存在感を持ちながらも艶やかな風味はこのワインだけでも楽しめるし、料理とも楽しめるだろう。

飲み終えた後瞼を閉じると、後ろ髪をアップした女性の細い首筋とうなじが見える。

2. PAVILLON ROUGE DU CHATEAU MARGRAUX 2008

ぶどう種: カベルネ・ソーヴィニヨン 55%、メルロー 40%、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド
ふち: すっきり
香り: 爽やかな3月の春の香り
ファースト: 果実味
味: まろやかさでありながら、隠れたスパイシーさが舌を刺す
フィニッシュ: 品位を感じる充足感、シンプルであり複雑さの中から味を探し出すワインではない。しかし確かな飲み応え
ボディ: ミディアム

シャトー・マルゴーのセカンドワイン。試飲会の最後に購入できるボトルのラインナップを見せてもらったが現実的に購入できるものはこのランクだろうか。何せ桁が一個違う…。ティボー氏曰く、オーク樽で18~21ヶ月熟成、清澄とフィルターはしていないとのこと。畑の使い方として、かつてはシャトー・マルゴー向けのぶどうを70%、その他のワイン向けのぶどうを30%の目安で使っていたそうだが、2006年ごろから1/3、1/3、1/3の目安に変更したそうだ。もっともぶどうはナマモノなので人間の思い通りにはいかない。あくまで目安といったところだろう。

3. CHATEAU MARGRAUX 2010

ぶどう種: カベルネ・ソーヴィニヨン 85%、メルロー 8%、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド
ふち: ねっとり、粘りを感じる
色: 赤黒い
香り(アロマ): 春、5月の晴天、瞳孔の向こうに紫色や黄色・桃色に野草が咲き乱れる田んぼと畦道が見える
ファースト: ぶどうの風味が全面に押し寄せる
味: フルーティ、みかんの柑橘さ、梨の雫
フィニッシュ: 力みなぎるパワフルさではなく上品なパワフルさを感じる。パワフルさに負けない気品さが凄い。戻りが極めて軽いため、その分が気品さにつながっているのか
ボディ: フルボディ

今回のラインナップでティボー氏が太鼓判を押していたワイン。後述に2006年のシャトー・マルゴーが控えているが、ノートに「これは何にでも合う!すごい、当てた」と書きなぐるほどで、オレ個人としてもこちらのほうが評価が高い。ティボー氏の解説でも2010年は当たり年だったらしく年数は若いながらもこちらを強く推していた。ウィスキーでは基本的に年数が古いほどウィスキーの複雑さ、風味に優れるものだが、ワインがなぜ当たり年を重視するのか、このワインが示してくれた。ワインの香りを嗅いだ瞬間、幼い頃に歩いた畦道の風景が視覚を覆う経験などこれまでにない。フランスに赴いたことはないため現地の風景に思いを馳せることは出来ないが、誰もが内に秘める自然への憧憬と感謝を呼び起こす逸品であろう。
この酒に匹敵する(この感動に匹敵する)食べ物を簡単には想像できないが、おすすめは鴨肉、牛肉と合わせることらしい。

4. CHATEAU MARGRAUX 2006

ふち: すっきり
香り: ぶどう、赤ワインの森
味: まろやか、やさしい、酸味を感じる 中でもやさしさが際立つ
ボディ: フルボディ
戻り: 薄い

前述のシャトー・マルゴー 2010年のあまりの素晴らしさの為にすっかり感想が薄くなってしまった2006年。二番目のパビロン・ルージュと比較すれば全てにおいて上を行く一品であるが、2010年のインパクトが凄すぎる。逆に言えば、この酒のおかげで冷静さを取り戻しそのやさしさからシャトー・マルゴーの評価としてよく使われる「女性的なワイン」と言う表現を実感する事ができたか。昨年のシャトー・ムートン・ロートシルトは「男性的なワイン」と言われ、その猛々しさすら感じるインパクトと比べると違いは火を見るまでもない。因みにティボー氏曰く、ヴィンテージの付かないボトルは一本たりとも無く、現在の段階では2004年より後のワインは若いワインの分類らしい。特にシャトーに眠る最古のボトルは1864年のものなのだとか。最早歴史の証言者、そのコルクを開けるものではない。








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